お題1:ジーノが椿に照れる
ばん様 【Queen's Kitty】 ※R-18
赤く染まった耳たぶ
窓の外射し込む光は優しい、天気予報はめでたく当り、その日は雲一つない快晴。いつものように王子の部屋にお邪魔して過ごす休日はETUの王子様はワガママも相変わらずでサッカー以外の経験が薄い椿をからかい、わざと情事めいた手つきをしてじゃれついたり、王子にからかわれ顔を真っ赤にして照れるばかり。
「うぅ…王子、俺で遊ぶなんて酷いっス…」
「ごめんごめん、だってバッキーすぐ真っ赤になるからかわいくて、ついね」
座り心地のよい高級そうなソファー、広めのその場所も王子の手にかかれば椿を追い詰めるには簡単で、体を抱き竦められ、間近に迫るジーノの綺麗な顔立ち、時折ふきかかる息を嫌が応にでも意識してしまい心臓が跳ねる。何度体を重ね、夜を過ごしてもそういった雰囲気は慣れようがない。あまい、あまい、恋人同士の時間。
気恥ずかしいような、むず痒いような、けれどそれが嫌ではない。出来るなら身を縮こまらせるだけではなく、嬉しい、そう彼に伝えることが出来ればいいのに。口下手で慣れてはいない椿はどうしようもない。こういう時どうしたら伝えられるのだろう、普段はスポーツニュースばかりみるテレビでドラマも少しくらいみれば参考になっただろうか。
「ねぇ、バッキー。いつもキミを照れさせてばかりだからバッキーがボクを照れさせてみなよ」
「え、え、えぇええええええええええっ?!」
「バッキーもボクが照れるてるところみたことないでしょう」
「そ、そりゃ…そうですけど…」
王子としては軽い思いつきなのだろうが色事に疎い椿からすれば、無理難題である。狼狽え、今度こそ困惑した椿の様子を楽しげに眺めるジーノは椿がどう出て来るのか、何をしてくれるのか。期待をこめて微笑んだ。こうでもしないければ、年若い恥ずかしがり屋な恋人はジーノのために積極的なってはくれない。
「ピッチだけじゃなくてボクといる時だってもっと自由に動いてくれていいんだよ」
「王子…今のセクハラ入ってますよ…」
でも、王子の言う事も一理ある。椿だって男だ、意趣返しというかささやかな反抗とでもいうべきか、彼を照れさせてみたいと思う。綺麗な顔立ちをした異国の血を半分引いた王子はいつだって余裕で端正なその表情はどんな時も崩れることはない、いつも悠然として余裕を崩さない、強い人。
そんなジーノがもし照れることがあるのだとしたら、きっととても綺麗だろう。みてみたい、自分が知らない王子の表情を、知りたい。伝えてみようか、普段なら言えない気持ちを、拙いなりに言葉に変えて。そう思ってしまえば覚悟は決まる、あとは彼の瞳を見据えてまっすぐ伝えるだけだ。
すぅ、と深く深呼吸をして隣にいたジーノの顔を見据え、椿は告げる。
「俺、王子みたいに慣れてないからこういうの言われるとすっごいハードル高いんですけど…、
だから、どうしたらいいのか、全然思いつかないから…普段、あんまり言えないこと王子に言います…!
サテライトからETUに来て、王子と会って、飼い犬だって言われた時はびっくりしちゃったっていうか、
王子みたいにサッカーの上手い人が俺のことを気に入ってくれたなんて思いもしなくて、
まだ俺、サッカーも全然下手くそでチームの足引っ張ってばかりだから、王子のこと好きになって、
王子も俺のこと、好きだって言ってもらえて…すっげぇ、嬉しくて…今も信じられないぐらい。
ホントは俺、王子とこうしている時…どうしていいか、わかんなくて、
今だって王子が背中押してくれたから、やっと話せるんです、…もっと王子を喜ばせてあげたいのに。
俺、王子につまんない思いさせたくないから、そう思うんスけど、上手くいかなくて。
王子は自由な人だから俺だけの王子じゃないっすけど、オフの日に一緒に過ごせるだけで幸せで。
き、キスとか、エッチなことは恥ずかしくても、王子が触ってくれるならむしろ嬉しいっていうか…ーー」
続く言葉を探す椿を止めたのはジーノだ、手は椿の口元を抑え、俯いていて表情は伺えない。
じわり、形のよい彼の手が熱を帯びているのは気のせいだろうか。
(…あ、)
サラリと綺麗に整えられた黒髪から見えた王子の耳は真っ赤だった。
あぁもうボクの負けだよ、バッキー。彼の口から出た降伏宣言。
「キミにそんな可愛いこと言われたらかなわないじゃないか…」
顔を上げたジーノはやはりどこか恥ずかしそうでいつもなら余裕であるはずの表情もどことなくぎこちない、みたこともない王子の顔は思っていた通り綺麗だ。普段の王子も、今の珍しい王子も、そのどちらだって椿を喜ばせ、嬉しくさせてくれる、大好きでいとしい人。
もっとみていたかったのに落とされた口付けに阻止される、まじまじとみるのもではないよ、なんて彼が言うから、王子だっていつもみていると抗議すると、ボクはキミの飼い主だからいいんだ。よくわからない彼の屁理屈がなんだか酷くおかしくて笑った。
赤く染まった耳たぶの熱は冷めそうにない。
タイトルは伽藍様からお借りしました
[11/06/07]