お題1:ジーノが椿に照れる
vivi 【vivi】
「降参だよ」
湯上がりの椿を待っていたジーノは、椿が風呂へ入る前に座っていた一人掛けの椅子から幅の広いソファーへ居を移しており、背もたれに凭れながら何かを手元でいじっている。
部屋へ戻ってきた椿を手招きすると、隣へ座るよう促した。
「バッキー」
「何ですか?」
優しく呼べば、素直に返事が返ってくることに気を良くしてジーノはにこにこと微笑むと、そっと椿にシルバーのそれを手渡した。
「はい、これ」
「……耳かき?」
「そう。なんかちょっと耳が痒くてね。ちょっとやってくれないかな?」
「お、俺っスか?!」
「だって人にやってもらう方が気持ちいいもの」
ジーノの言い分は椿にとっても納得感のあるものだったが、椿の懸念点は別にある。それは耳かきという繊細な作業を、もし手が滑って大切なジーノの耳を傷つけるようなことが起こってしまったらどうしようというものだった。そんなことを思って手の中の耳かきを所在なさげに弄っていると、ジーノは椿の逡巡を止めるように一つ大袈裟なため息を吐くとこう言い放った。
「…いいよ。バッキーができないなら、知り合いの女のコの誰かにやってもらうから」
そうして携帯のメモリーを探る素振りをすると、椿がはっとした表情をしてジーノの携帯を持つ手を掴み、
「お、俺がやります!」
と宣言した。ジーノはしてやったりとした顔で笑うと、
「そう?じゃあよろしくね」
と言って頭を椿の膝に下ろした。
所謂ひざ枕をさせられ、椿は動揺した。もぞもぞとジーノが収まりのいい場所を求めて頭の位置を変えると、ハーフパンツからむき出しの膝や太腿にジーノの髪が触れてくすぐったい。先に入浴を済ませたジーノの髪はまだ若干湿り気を帯びており、風呂上がりの椿には冷んやりとした感触が少し気持ち良かった。
そっと壊れ物を扱うように作業をしていたが、あらかた取り終えた為
「はい、おしまいっス」
「ん、ご苦労、バッキー」
そうジーノがねぎらい、起き上がろうとしたとき椿が身をかがめてふぅと耳に息を吹きかけた。
瞬間ゾワゾワとした感触が身体を駆け巡り、ジーノは思わず自分の耳を押さえた。
「ーーっ!ちょっと、バッキー?!」
「はい?」
まさか椿が耳に吐息をかけるとは予想していなかったジーノは、非常に驚いた。
椿からしたら、耳かきで散らばったかもしれないごみを吹き飛ばすつもりで吹いただけで他意はない。というか昔母親にしてもらったようにしただけなのだが、ジーノの大袈裟な反応に逆にきょとんとした表情をしている。
みるみるうちにジーノの耳が紅く染まっていく。
「あ……っ」
その様子を見て同じ反応を先日自分も返したことを思い出し、つられて椿の頬も赤らんでいく。
(…そっか、王子も……)
いつも余裕綽々なジーノの予想外の反応に、椿の胸がキュウと高鳴ったことに気付いたのか、ジーノはムッとした表情を引っ込めてはぁと大きなため息をつく。
「…バッキーって、たまにすごいよね。…まぁそんなところも気に入ってるんだけど」
そして照れ隠しのようにジーノは椿の唇に自らのそれを押し当てて「降参だよ」と言った。
おわり