お題4:キス

九条みやこ様 【neutral】 ※R-18




「好きだよ」

目が合ったと思ったらいきなりそんなことを言われて、俺は運んでいたコーヒーを落としそうになった。
そんなことはとうに知っているのに、言われるたびに照れてしまって、王子の顔をちゃんと見れなくなってしまう。
王子は楽しそうにこっちを眺めている。その笑顔はとても優しい。だから余計に見れない。
震える両手で二人分のカップをローテーブルの上に置く。カップと皿がカチャカチャと必要以上に鳴ってしまった。まるで俺の心臓みたいだ。

「ありがとう、バッキー」

多分、今のはコーヒーを淹れたお礼。なのに俺の体は怒られたみたいにビクリと跳ねた。ほんと、どうしようもないな俺……。
俺も王子みたいにかっこよくキメてみたい。でもそう思っても、俺のメンタルはこういう時もからっきしに弱くて、しどろもどろに返事するのが精一杯だ。

「ねえ、バッキーは?」

王子は長い足を組み替えて、俺に聞いてくる。覚えててくれてると思ってしまってたから、俺うぬぼれんなって心の中で自分を殴った。だから、ミルクだけでいいッスってなるべく明るい声で言ったのに、王子はきょとんとしたあとに大きな声で笑った。

「あはは! バッキー、君は本当に頭が悪いね」

――君は頭の悪い猟犬だ。
冬のキャンプで王子にそう言われたことを思い出す。確かにお世辞にも頭がいいとは言えない。けど、さすがに面と向かってそう言われるといくら俺でも落ち込むんス……。

「違うよ、そうじゃなくて」

王子はガクリと落ちてしまった俺の頭を撫でながらそう言った。俺、王子の手でこうやってされるのが好きだ。王子が撫でててくれるなら、ずっとこのままでいたい。でも王子は髪から頬へ手を移して、俺の顔を上向かせた。

「バッキーは、ボクのこと好き?」

間近で王子の顔が、頬から伸びた指が俺の耳を、王子のこと好きかどうかなんて、そんなの決まってる。

「ふふ。可愛いね」

必死すぎて裏返った声で搾り出した答えを王子は気に入ってくれたみたいで、すごくきれいに笑った。そんな風に微笑まれたら、俺は、王子と。

「ねえ、キスしようか」

王子はすごい。なんで俺が思ってることが分かるんだろう。
さっきより大きく目を開いた王子が一つ瞬きをした。滅多に見れない王子のその表情に見とれている間に、王子は俺を引き寄せて、唇が重なった。