お題4:キス
にゃ〜様
healing method
ぼんやり空を眺めてたら軽くちゅと口付けされた。
「……………っ」
一気に顔が熱くなるのを感じつつ目が合う。
「バッキー、隙だらけだよ」
くす、と笑いを零すジーノは余裕たっぷりで相も変わらず口付け一つに動揺する椿は眉を下げて苦笑した。
そんな椿を見て王子様も大人しく頭でも撫でて解放してあげる日ばかりでは無い。動揺して自分の前に組んだり離したりする椿の手を両手が重なる時に取り、椿の手を塞ぐとずいっと距離を縮める。
ジーノの部屋に来ていて、二人きりなのにも関わらず益々オロオロする椿は耳まで赤い。
「あ、あ、あの…っ」
連動して上擦る声と肩が僅かに震えている。
一瞬嫌がられているんじゃ無いかと錯覚しそうな椿の態度だが、性格故仕方無いようだ。以前、嫌じゃ無いか聞いた事があるが椿はハッキリとそれは否定した。
だからそれに自惚れる事にしたジーノは椿の困惑した態度にも、何だかそれはそれで可愛いくて目を細めた。本人もそんな自分をどうにかしたいという気持ちはあるので必死なのも可愛いさに拍車をかけるものでしか無い。
「バッキーからもシて欲しいなぁ」
自分の人差し指を唇に当てにっこり微笑むジーノに、きっとガチンと音がしてもおかしく無いくらい椿が身体を硬直させる。
「…お…王ー…っ」
掴まれた手に力が込められる。いつもは体温が低めなせいか冷えてるジーノの手は今は熱っぽく温かい。かくいう椿の手も熱いくらいで…。
「バッキーの手、熱いね」
手を掴むのとは反対の手でジーノに腰を掴まれ更に引き寄せられる。これで後ろへは退けなくなり、目の前にはジーノの顔がある。
(…ぅ…わ…)
至近距離でのジーノの顔は椿にとっては破壊力(?)抜群で、睫毛長いなぁ、とか肌綺麗だなぁとか吸い込まれそうな瞳だなぁとか、鼻筋も整ってるとかドキドキ早くなる鼓動の中で考えがまとまらなくなり、そんな一人パニック寸前な中ジーノの唇も視界に入れてしまい心臓は飛び出しそうになる。
ん?と柔らかな笑みを浮かべ覗き込んでくるジーノはそんな緊張しまくりの椿を見透かすように、でもごく自然に顔を近付ける。
観念するしか無いし、正直嫌では無いから椿も震えながら軽く唇を重ねる。
「……ん」
触れる程度の口付けに、まぁ色事に不慣れな愛犬にはこれが限界かな、とジーノが離れる唇の感覚に名残惜しいなぁと密に思う。
これから自分がたくさんシてあげるだけか、なんて内心思っているとぎこちなく再び唇が重なりさすがにジーノでも驚いた。
遠慮がちに重なる唇は浅くだが何度も重なる。
珍しいと驚き半分に、でも嬉しくてされるがままに椿を好きにさせて、たまに自分から耳や目尻に口付けると、素直な愛犬はその甘ったるさに逆らう事無く懐いてくる。
「ん…、は…ぁ」
煽ってみるもんだなぁ、とジーノの口角が上がる。ちゅ、と何度か耳や首筋へと唇を落とせば軽くだがその唇に口付け返される。
多分椿は頭の中は真っ白で、考えてなんかこんな行為は出来ない。閉じられた瞼がとろんと溶けそうに熱を含んで見つめ返されると、煽ったはずが逆に煽られてるような気分になる。
「バッキー」
唇が離れた時、ふいに名前を呼べば溶けそうだった瞳は現実を取り戻す。一瞬目を丸くして時を止めた椿は夢から覚めたようにわたわたし、悪い事をしたわけでも無いのだが慌てた。
「すすすすみませんっ…!」
しかし、慌てた所でジーノに手を掴まれているし腰にも腕がまわっている。
「…あの」
「何?バッキー?」
「…俺ってそんなにバレバレなんですか?」
「何が?」
椿の問いにお構い無しに再びジーノの唇が寄せられてぴくんと椿の肩が跳ねる。
「…あの」
「うん」
「…………あの…」
暫く押し黙り何に助けを求めるでも無いが視界を宙にさ迷わせ、わかってたけど助けてくれるものなんて無いから椿は降参してジーノの肩に顔を埋める。
「……あ…あの」
「うん」
ジーノも助け船なんか出してくれ無い。と、いうか出す訳が無い。状況を楽しんでるかの表情で椿の返答を待つ。他愛無い答えで構わないと内心思う。それでも一生懸命なのが可愛いんだから…。
「…も、…っと…シても…良いです…か…?」
「……………」
ジーノが急に目を丸くして黙ってしまったので椿が焦る。
「……ッ!…ス、スミマセン!!」
「…ーえ、…あぁ。良いよ」
慌ててつい謝罪の言葉を口にすると、ジーノからは軽く承諾の返事が返ってくる。
「え…」
今度は椿がキョトンと目を丸くすれば、ジーノがにっこり微笑む。ドキとするよりギクリとしたのは日頃の王子様の気まぐれのせいだと思いたい。
「な、何するんですか…?」
「バッキー、その言い方だといつも僕が何かしてるみたいなんだけど?」
「…ぅ、…スミマセン…」
「まぁ、相違無いけど」
「………………」
…自覚はあるみたいである。どっちにしても椿に反論は出来無い。
「それは良いから、ほら…おいで、バッキー」
「…………おいで、って…」
「ここ」
と、ジーノが指指すのは自らの膝。
「だ、駄目っスよ!何かあったらどうするんですかっ!」
「キスするだけだし大丈夫だよ」
それとも他にも何かシてくれるのかな?と意地悪く笑って見せれば顔を真っ赤にして首を振る椿に可笑しくなりそれを見てるジーノは益々楽しそうにする。
ジーノからそう言われる以上椿は緊張した面持ちでそろそろと膝の上へペタリと座る。ジーノに促されるままソファーのクッションへ自分の膝を下ろす。緊張のあまり「お、お邪魔します…」なんて口走ってしまい「バッキーはいつも面白いね」とジーノにそれはそれはウケられた。
「バッキーの返答にはあんまり期待して無いんだけどさー」
くすくす笑いながら耳や頬に唇が降りてきて擽ったい。しかし、それよりもジーノの台詞にへにゃと椿は眉を下げた。
「でもいつも予想より凄い答えが返ってくるから楽しいよ」
ゆっくり近付く唇は椿の唇の僅か手前で止まる。
ほら、シてくれるんでしょ?と囁かれ、端正な顔を目の前にしてヤバイ倒れそう…とか椿は片隅で思う。
緊張はまだ解けないままだったが、恐る恐る唇を重ねると少しほわんと幸せになる。
「元気出た?」
離れた唇、ジーノからは予想して無い台詞だった。
「え?」
「ぼんやり空眺めてるから疲れてるのかと思ったんだけど?」
「あ、…いや…えっと…」
最初の口付けもそう考えてしてくれたものだろうか…?
疲れてる、と自覚は無いけどジーノが気遣ってくれるのが嬉しかった。
「…元気…でました。ありがとうございます」
素直に笑顔を返す椿が可愛い。
緩む口元は抑えられず撫でずにいられないからジーノは長い指で椿の頭を柔らかく頭を撫でると、ちゅ、と照れて震えながら椿がジーノの頬に口付けた。
「バッキー真っ赤」
う、と椿が耳まで赤い顔を隠す為か手で覆ったり顔をジーノから背けたりしてみたが、最終的にはジーノへと抱き着いてきた。
確かにこの距離だと顔は見えないけど…。
ジーノは椿に口付けされた頬をそっと手の平で覆う。
…可愛い
何度見ても可愛い照れた顔を見たくて椿の肩を押してみるが椿は動かない。
「バッキー?」
「だ、駄目…ス。離れたら…顔見えちゃうじゃ無い…スか…」
頬に口付けたのがよっぽど恥ずかしいのか椿が離れ無い。ジーノは軽く肩を竦めた。
一言、そろそろ脚痛いなぁ、とでも言ってみれば椿の性格上慌てて離れるだろうが何かもう色々可愛い過ぎるからもう少しこのままで良いか…と考えてるジーノは自分も大概だと苦笑する。
さぁ、どうしようか…。
今は抱きしめる以外思いつかない。
自分もこうして愛犬から元気を貰っているんだと、腕をまわした。
おわり
†今回は参加させて頂きありがとうございます!
個人的には凄く楽しく書かせて頂きました。稚拙な上至らない所ばかりですがちょこっとでもお力添え出来てれば、と思いますv