お題4:キス
佐々田端束様 【槃しくない戀をしよう。 】 ※R-18
「バッキー」
そう名前を呼ばれたので振り返るとキスをされた。離れた唇にうわあ、と口にすると俺の額にそれをもう一度落としながらくすくすと笑う声がする。
「君はいつまでも慣れないね」
さっきまであんなに熱烈に愛し合ったのに、と低い声で囁かれるとそれらを思い出してしまいかあと顔が体が熱くなってしまう。
「あ、の、その、最中は、夢中で、」
俺がしどろもどろに言い訳めいたことを言う俺と未だちゅ、ちゅ、と音をさせて頬に額に口吻ける王子のどっちが恥ずかしいんだろう。俺かな。
「バッキーがちゃんとボクを好きでいるようで、嬉しいよ」
耳の傍でそんなこと言わないで! という俺の懇願の混ざったような変な声にやっぱり王子は笑って、鼻先にまたキスをするとそのまま勢いで押し倒された。下はベッドだけど、それでも頭を打つと怖いな、なんてことを思う間もなく後頭部に王子の掌が敷かれている。こういう所があるからモテるんだろうなあ、と変に感心していると何を考えているんだい、とちょっと不機嫌そうな声になる。
「え、あ、」
「せっかくボクと二人きりだっていうのに、他のことを考えられるのは嫌だなあ」
「お、王子のことを、考えてたんス、けど……」
おろおろとそう返すと本当? と念を押すように言いながら首と肩の中間のような所に、やっぱり音を立てながらキスをする。ああ王子の睫毛ってやっぱり長いなあ、とうわ言のように思う。こんなに王子のことで頭がいっぱいだというのに他のことなんて、と思わず口を突いて出た言葉。に、応じらしい、ちょっときざったらしい笑い声が上がった。
「嬉しいなあ」
その声色が、いつものさらりと軽いそれじゃなくて、熱く芯のあるような感じで、なんだかドキリとしてしまった。それを言うならいつでも王子にドキドキしてはいるんだけど。
「君が、きちんとボクに夢中なのが分かって、嬉しいな」
もう一度言う。その甘い言葉に少し遅れちくりと刺すような痛みがあって、それが王子によったものだと気づいた瞬間にその上へ再び、柔らかい感触が触れた。
「首輪の代わりだよ」
ふふ、と心底楽しそうに言う声が、その持ち主の指が今しがた唇で触れた部分を撫ぜる。首の側面辺り。ここを噛みつかれでもしたらきっと、と思うようなむきだしの危うい皮膚の上をなぞって、俺を所有するその人は、鮮やかに笑んでから唇を俺のそれに重ねた。
230605